男が食事をしているときに考えていることなど、男同士で話すことでもなく、家族に話すことでもない。
朝食をしながら、男が一人で考えていることは、この食事がこの世の食事の最後になるかもしれない、この食事を終えて、仕事場に行けば、戻って来られないかもしれない、ということだ。どれほどにあるのか知らない寿命を抱えて、仕事場で命を削って、そこで尽きるかもしれない、仕事に耐えられずに命を絶つかもしれない、名誉のために命を投げ出さなければならないかもしれない、予期せぬことで果てるかもしれない。朝食は見納め、食べ納めだ。
夕食をしながら、男が一人が考えていることは、命が尽きず、図らずも家族のもとに戻ってきて、もう一食いただける幸せだ。今朝にした命の限りがんばる決意も費(つい)えたのか、みっともないながらも命ながらえて戻ってきて食事をいただく幸せ。
と、考える男がいる。